伊藤 亜矢子
教育心理学研究 47(1) 107-116 1999年3月
Kelly (1995) の Role Construct Repertory Test (RCRT) の教育への利用を展望し, 実践的かつ個性記述的な方法としての利点や展開可能性について検討した。まずRCRTの理論的基盤であるKellyのPersonal Construct PsychologyとKellyが創案したRCRTの原版について述べ, 国内での利用として教師用RCRT(近藤, 1995)とその応用について述べた。さらに海外での利用として, 教師教育と, 学習および学習活動における利用を展望した。RCRTは, 個人に内包される暗黙の視点を個性記述的に抽出できる方法であり, 自己理解や他者との比較, あるいはそれによる行動の変化が促進できる。また個人の視点を個人の文脈にそって抽出でき, 学習者の理解や, より適切な援助方法への手がかりが得られる。さらに集団学習の基盤づくりなどにも応用可能である。このようにRCRTは, 構造化された作業から個別的な情報をもたらす個性記述的な方法として, 教育における実践に寄与する利点を持つ。最後に, こうしたRCRTの利点や展開可能性とともに, エレメントの交換などによる理論から離れた安易な利用をさける工夫や, 被験者の内心の探索という性質からくる侵襲性や, 検査者側の条件への配慮の必要などについて言及した。