菊地遼太郎
日本英語英文学会第32回年次大会 2023年3月4日 日本英語英文学会
現代英語の文法書では、分離不定詞について次のような記述がある。
(1) it is probably the best-known topic in the whole of the English pedagogical grammatical tradition.(おそらく英語教育の歴史上もっともよく知られたトピックである)
(Huddleston and Pullum 2002: 581、日本語訳発表者)
本発表では、「分離不定詞(Split Infinitive)」が一文法現象としてどのように記述されてきたかを扱う。伝統文法の頂点であるLowth(1762), Murray(1795)の文法観を概観したのち、機能・意味を重視するCurme(1931, 1947)、形式に重きを置いているJespersen(1926, 1940)を比較することにより、分離不定詞とはどのような文法現象なのか、その性質に迫る。林・安藤(1988)によるとCurmeの著書は、形式よりも機能・意味を重視している点で Jespersen の著書といちじるしい対照をなしている。
通時的には、IPという機能範疇の創発による不定詞標識toの構造変化([PP to [NP V + enne]] > [IP [I’ to [VP V]]])が分離不定詞という表現形式を可能にしたと説明できる。
また、現代英語の話し言葉における否定分離不定詞(to not do)の論考より、
(2) You have to not say that word. [Rosie, 4 years old]
(3) He tended to not like people who refused to be subservient to him. [male Sinatra biographer, Morning Edition, NPR, 9 Dec. 1998]
などの例文から、母語話者がどのような動機でそのような形式を用いるのか、語用論の観点から論じる。アクセントや強調の位置が変わるので、修辞的効果を「弱・強」のリズムで生み出していると主張する。