垣内 正久
RADIOISOTOPES 48(2) 79-86 1999年
環境水におけるトリチウム濃度の測定精度の向上のために, すでに著者らは電解前後における重水素濃度を測定してトリチウムの濃縮率を推定する方法を提案した。近年, 操作が簡便で安全性の高い固体高分子電解質を用いたトリチウム電解濃縮装置が開発された。本装置における電解時の試料水の重水素とトリチウムの濃縮率の相関を調べた。電解時における各濃縮率の対数比k (=α (β-1) /β (α-1) ) は, 実験により1.173±0.007と求められ, 一定になることが示された。ここで, αとβは重水素とトリチウムの分離係数である。本電解装置で得られたkの値はこれまで一般によく用いられてきた重水素とトリチウムの分離係数の相関を示すβ/αおよびlogβ/logαの値の変動と比較して, より変動幅が小さいことが確かめられた。この装置で電解濃縮を行う際このkの値を用いれば, 電解前の試料水のトリチウム濃度 (T/H) 0は, (T/H) 0= (T/H) f [ (D/H) f/ (D/H) 0] -k式より, 電解前後の試料水の量を測定することなしに, 電解前後の試料水の重水素濃度 ( (D/H) 0と (D/H) f) と, 電解後のトリチウム濃度 (T/H) fを測定することで正確かっ精密に求められる。この際, 電解前後の水の重水素濃度を質量分析計で測定すると, 重水素の濃縮率がよりいっそう精密に求められ, トリチウムの濃縮率の誤差が小さくなり, 試料水のトリチウム濃度がより正確に求められることがわかった。