小松 伸一, 太田 信夫
教育心理学年報 38 155-168 1999年
記憶研究において近年話題になっているトピックとして, 作業記憶, 潜在記憶, 展望記憶, 記憶の歪み, 自伝的記憶を取り上げ, それぞれのトピックにおける研究動向を展望した。作業記憶研究においては, 中枢実行系の機能を解明していくことがこれからの研究の焦点となっていた。潜在記憶研究では, 無意識的記憶過程との対比によって意識的記憶過程の解明が試みられ, 意図的な想起, 検索結果のモニタリング, 主観的意識経験, という3つの特徴が明示された。これら3つの特徴は, 生態学的妥当性を指向した研究の中で, より詳細な分析が積み重ねられてきた。まず展望記憶は, 回想記憶と比較した場合, 自己始動型検索に依存している点が特徴となっていたが, この特徴は実行機能の反映とみなされた。次に, 検索過程のモニタリングも実行機能の反映と考えられ, その失敗は記憶の歪みや誤りを引き起こすことが指摘された。さらに, 自伝的記憶の想起には, 自己概念が密接に関わり合っていることが示された。実行機能の解明は, 今後の記憶研究にとって重要な課題であることを示唆した。