Faculty of International Social Sciences

高橋 裕子

タカハシ ヒロコ  (Hiroko Takahashi)

基本情報

所属
学習院大学 文学部 哲学科 教授
学位
文学修士

J-GLOBAL ID
201301041518029800
researchmap会員ID
7000005924

受賞

 1

MISC

 4
  • 高橋 裕子
    『人文』(学習院大学人文科学研究所) 5(5) 5-37 2006年  
    「聖母を描く福音書記者聖ルカ」という主題は15〜16世紀のネーデルラント絵画に目立つが、同時期のイタリアでは珍しく、この主題を単独で扱った公的作品は、1570年頃ヴァザーリがフィレンツェの美術家組織の礼拝堂に描いた壁画が最古の現存例である。その意義が看過されてきたのは、伝ラファエロの同主題作品やネーデルラントの作例の影響下に描かれたとの推定による。しかし近年、伝ラファエロ作品はフェデリコ・ツッカロによる16世紀末の模作と見なされており、両者の類似はヴァザーリからの影響ということになる。 また、ヴァザーリの《聖母を描く聖ルカ》の特徴は、イタリア美術史のなかで説明が可能である。新たな主題の絵画化に際して、ヴァザーリは16 世紀初頭のフラ・バルトロメオによる《聖ベルナルドゥスの幻視》の構図を参照し得た。ヴァザーリ作品の「北方的」特徴とされる風俗画的モティーフ(工房で働く徒弟)にしても、すでに15世紀半ば、クレモナのボニファチオ・ベンボ作の天井画の四福音書記者像において、聖母を描く聖ルカの傍らに登場している。風俗画的要素はネーデルラント絵画に由来するとは限らない。 一方、16世紀ネーデルラントの「聖母を描く聖ルカ」の作例は、「ロマニスト」(ルネサンス美術を母国に移植しようとしたイタリア帰りの画家)によることが注目される。従来、こうした作品の一部については、イタリアの同主題の作例を手本としたことが漠然と想定されていた。しかし、ホッサールトやヘームスケルクなどこれらロマニストが活動した16世紀半ば以前には、手本とすべきイタリアの絵はまだ誕生しておらず、影響は背景の古代建築モティーフなど一般的なものに留まっている。つまり、ここにもネーデルラントとイタリアの具体的な影響関係は認めがたい。しかし、ヴァザーリのこの主題への関心は、彼がローマで出会ったことを記しているヘームスケルクに刺激された可能性がある。 伝統的に、美術家は職人として学者文人よりも地位が低かった。イタリア・ルネサンスの美術家による理論書や伝記の執筆は、美術活動を知的営為と主張する理論闘争であった。ヴァザーリの『美術家列伝』はその代表格である。こうした理念は北方ではイタリアから輸入されたと考えられてきたが、近年の研究によれば、15世紀初頭以来、ネーデルラントの画家たちは聖なる画家ルカを描くことを通じて画家の業の高貴さを主張してきた。ヴァザーリはこの北方の伝統を知り、言葉で主張するイタリアの伝統に加えたと考えられる。
  • 高橋 裕子
    『大塚フォーラム』(大塚英語教育研究会) (20) 20-32 2002年  

書籍等出版物

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講演・口頭発表等

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